技術情報コラムColumn

近未来のコンピュータ事情

技術解説

私たちがいつも利用しているコンピュータの話はちょっと脇に置いておきまして、今回は近未来のコンピュータのお話をしたいと思います。

本技術情報コラムでは、具体的なテクノロジーや、最新技術など、事例を交えてご紹介させていただくことが多いのですが、たまにはこういった未来の話も良いかと思い書かせて頂きました。

 

実用化されるのは10年後なのかはたまた50年後なのか、まだまだ先の話なのは間違いないと思いますが、最近何かと話題に上り、近い将来、私たちを取り巻くコンピュータ事情に劇的な変化をもたらすであろうものの一つが「量子コンピュータ」です。

 

この「量子コンピュータ」、一度は聞いたことがある方も多いと思います。

私も何年か前に、存在を知って調べたときの感想としては「なんだか怪しげ」で「絵に描いた餅」的な印象を持っていましたが、最近ではカナダの「D-Wave Systems」社が商用の量子コンピュータを開発したなど、実用化に向けてかなりの具体的な動きが出てきた印象です。

 

 

「量子コンピュータ」とは?

 

私たちが使用しているコンピュータは、1ビットを基本単位として「0」「1」のいずれかの値を持ち計算します。一方で、量子コンピュータでは量子ビット (キュービット) を基本単位とし、1キュービット辺り0と1の値を任意の割合で重ね合わせて保持します。10量子ビットあれば、2の10乗の1024通りの計算処理が「同時に」処理する事ができます。

量子コンピュータの登場により、現在のコンピュータに比べて考えられない程高速な計算処理が実現可能になります。

 

量子コンピュータは「量子力学」を基本原則としています。

「量子力学」のご説明は物理学のお話になるためこの場では割愛させて頂きますが、「原子や電子など、ものすごくミクロな世界での物理的現象」を扱う学問です。

ミクロの世界では原子や電子などの物体は同時に複数の“状態”を持っています。同時に複数の状態が重なりあって存在しているということになります。

この「量子力学」の基本原則をコンピュータに応用したものが「量子コンピュータ」です。

 

なんか夢のような話ですね。ワクワクします。

量子コンピュータが実用化すれば私たちを取り巻く環境も劇的に変わることは間違いありません。

それほど強烈な可能性を秘めた技術なのです。

 

 

量子コンピュータで実現できる事
 

量子コンピュータといいましても、基本的には現在のコンピュータとくらべてとてつもなく高速に計算できるコンピュータであるに過ぎません。ただ、この「とてつもなく高速」が本当にとてつもなく高速なため、現在のスーパーコンピュータでも実現できなかったあらゆることが可能になると考えられています。

一聞すると、良いことばかりの量子コンピュータに思えますが、実用化されることは良い事ばかりではありません。ある側面では量子コンピュータの実用化にともない全面的に見直す必要性が出てくる事もあります。以下はその一例です。

 

量子コンピュータの性能を説明する時によく引き合いにでるのが「素因数分解」の処理性能です。

みなさん、漫画や映画などで、このようなセリフを見たり聞いたりしたことはありませんか?

「この暗号の解くにはスーパーコンピュータを使用しても数万年かかる。」

現在、広く普及しているRSA暗号化技術ですが、RSA暗号化の解析には「素因数分解」を使用します。現在のコンピュータでは桁数の多い素因数分解の計算にはとてつもなく膨大な時間がかかります。これがRSA暗号化の安全性の根拠としている所です。(解析には数万年掛るので事実上解析は不可能という事です。)

量子コンピュータはとてつもなく高速ですので、スーパーコンピュータでも数万年かかる暗号の解析が数秒でできてしまうのです。

従いまして量子コンピュータが実用化された場合、現在利用されているあらゆる暗号化技術が破られてしまう可能性が懸念されています。

そのため、量子コンピュータの研究開発と並行して、量子コンピュータでも解析不可能な新しい方式の暗号化技術も研究開発されています。

さすがです、抜かりはありません。

 

 

量子コンピュータに見る夢
 

量子コンピュータが実用化されれば、AI(人工知能)の技術が飛躍的に向上すると考えられています。これはAIを開発する上で使われる「機械学習」や「ディープラーニング」における計算処理を大幅に高速化できる可能性があるからです。

自分の意思で考え、笑い、怒り、泣く、「鉄腕アトム」が登場するのもそれほど遠い未来ではないかもしれません。